馴染みの映画館でこのドキュメンタリー映画のフライヤーを目にして興味をもち、市民映画劇場で1日限定公開を知ったのですが、残念ながら予定が合わずに断念。
そんな時、ブレイディみかこさんの『ブロークン・ブリテンに聞け』でこの作品について触れられているエッセイを読み、ますます観たくなりました。
どうにか観ることができないかと悶々としていたところ、Amazonプライムビデオで配信が始まり、早速レンタルして鑑賞しました。
作品情報
・製作年:2021年
・製作国:アイルランド・イギリス・ベルギー・フランス
・劇場公開日:2023年5月27日
・上映時間:102分
・監 督:ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ
内 容
北アイルランド紛争により、プロテスタントとカトリックの対立が繰り返されてきたベルファスト。
いまだに闘争の傷跡が残る労働者階級の住宅街にある公立校、ホーリークロス男子小学校では、「哲学」が主要科目となっています。
「どんな意見にも価値がある」を信条とするケヴィン・マカリーヴィー校長のもと、4歳から11歳の子どもたちは他者の意見を聞き、自ら考え、思考を整理し、自分の意見が変わっていく体験をします。
哲学的思考と対話で新たな未来を切り開くために、ケヴィン校長と子どもたちの挑戦が続くドキュメンタリーです。
主 演
ケヴィン・マカリーヴィーとホーリークロス男子小学校の子どもたち
エルヴィス・プレスリーが大好きで柔道黒帯のケヴィン校長は、すべてを拳で解決しようとした過去への自戒とともに、哲学と批判的思考に対する恐れを知らぬ確固たる信念を持っており、彼の情熱、カリスマ性は周りを巻き込んで変化を起こします。
その情熱の注がれる先が、ホーリークロス男子小学校の子どもたち。
闘争時代を生きてきた親たちが「やられたらやりかえせ!」と叫ぶ環境の中、「それでいいの?」と考えます。
シンク、シンク、レスポンド!
「シンク、シンク、レスポンド!(考えて、考えて、答える!)」
これは、ケヴィン校長のマントラです。
考えろ。
とにかく考えろ。
自分の頭で考えろ。
どんなことにも疑問を抱け ──
子どもたちが生きている世界。
そこは混沌とした衰退地区であり、政治的対立によって地域の発達が遅れ、犯罪や薬物乱用が蔓延しています。
この街の絶望感は、ヨーロッパで最も高い青少年の自殺率に反映されており、劇中でも故人を悼むシーンが映されます。
そんな世界で生き残るために必要なのは何なのか。
それも、ただ生き残るのではなく、
より良い未来を生き抜くために必要なのは何なのか。
それが、哲学的思考です。
子どもたちの不安、怒り、攻撃性、絶望 …
それらが衝動的な暴力へと安直につながらないように。
正しい選択をすることができるように。
どんな意見にも価値があることを実感するために。
考える。
とにかく考える。
自分の頭で考える。
考えて、考えて、考えて、
自分で答えを見つけ出す。
ソクラテスは“人は相手に考えるより鵜呑みにしてほしい”と言っているが、
そろそろ自分の頭を使え。
何かを言われたら聞き返せ。
疑問に思え。
“でも”と問い返せ。
哲学は実践です。
過去の偉大な哲学者たちの名言、考察、概念を学んでも、それが生活に生かされなければ机上の空論です。
しかし、
理想と現実は違います。
ケヴィン校長渾身の哲学対話を重ねても、校庭では殴り合いが起こります。
最初の殴り合いの後、解決したと思った喧嘩。
喧嘩はしないと約束したのに、再びの殴り合い。
「なぜ同じことが起きた?」
尋ねる校長に
「だってパパがいつも言ってる。“相手がかかってきたら必ず殴り返せ”。」
哲学実践の難しさを感じさせるシーンです。
聞き捨てならない子どもの言葉に衝撃を受けながら、
それでもケヴィン校長は哲学での解決策を示すのです。
考えて、考えて、考えて、
答えを見つける。
私もヨガ哲学を学んでおり、しかも大人になってから学び始めたので、
哲学を生活で実践する難しさを日々感じています。
頭でわかったつもりになっていても、実はなんにもわかっておらず、
気がつくと刷り込まれた以前の思考に取り込まれている ──
でも、それでも、問うことが大切なのです。
子どもたちの真摯な眼差しに、射抜かれます。
時に涙しながら考える姿勢に、突きつけられます。
本当に問うているか。
問うことをやめていないか。
考えて、考えて、考えているか。
そして、
この感受性豊かで多感な時期から哲学を学んだ子どもたちが、
どんなふうに成長し、
どんなふうに人生を切り開いていくのかに思いを巡らせるとき、
希望ともいえる高揚感が湧いてくるのです。
哲学することは、誰にとっても必要です。
よりよく生きていくために、必要です。
それなのに、
今まであまりにもなおざりにされ、教育に取り入れられてはきませんでした。
「子どもたちに哲学ができるのか?」
そんな考えは、この映画を見れば完全に覆されます。
覆されるどころか、
子どもたちにこそ哲学が必要であるとわかります。
大人に、教師に、社会に、慣習に、
教え込まれた“正しい答え”を正しいと考えるようになる前に、
当たり前といわれること当たり前と思うようになる前に、
自分で考える力を養う。
よろめきながら進んだ一歩一歩が、
自分の人生を切り開くことを知らしめる。
そんな哲学することの大切さを目の当たりにさせてくれる、希望への挑戦です。
現在この作品は、AmazonPrimeVideoで配信されています。
興味を持たれた方はチェックしてみてください。