『ヨシ 3万7千キロをおよいだウミガメのはなし』は、
20年間保護されていたウミガメが、2年2ヶ月をかけて3万7千キロを泳ぎ、たったひとりで生まれ故郷の砂浜へと向かう、驚異の実話をもとにした物語です。

基本情報
・タイトル :ヨシ 3万7千キロをおよいだウミガメのはなし
・作者/訳者:リン・コックス (文)、リチャード・ジョーンズ (絵)、いわじょうよしひと (訳)
・発行日 :2023年6月30日
・ページ数 :36p
・出版社 :あすなろ書房
とある夜更け。
オーストラリアの浜辺。
たくさんのウミガメの赤ちゃんが、
たまごの殻をやぶり、
キラキラと光る海をめざして走りだしました。
その中に、のちに〈ヨシ〉と呼ばれる
日本の名前を持つメスの赤ちゃんもいました。
赤ちゃんガメは泳ぎつづけ、
藻の森に身をかくし、
インド洋を漂い、
広大な世界を楽しんで……
ところがある日、
海中に張られたあみが、
ウミガメを傷つけます。
そこに通りかかった日本の漁船。
助けられたウミガメは〈ヨシ〉と名づけられ、
南アフリカ、ケープタウンの水族館に預けられました。
── それから20年。
水族館で過ごしたヨシは、
もうりっぱなおとなです。
そうしてほんらいの居場所、
海へと、
かえされることになります。
ところが ヨシは だれも 予想しなかった方向へ およぎだした。
北へ向かって泳ぎはじめたヨシが、
なぜか南へと引き返します。
もといたケープタウンを通りすぎ 東へ、
インド洋へと泳ぎだしたのです。
ヨシは自然の力に導かれ、
心のおもむくままに進んでいきます。
嵐の日も、
晴れた日も。
風にもまけず、
潮の流れにもまけず。
夏も、
秋も、
冬も──
そうして2年2ヶ月後、
オーストラリアの浜辺に、
生まれた場所に、
ヨシはかえってきました。

たったひとりで2年2ヶ月。
3万7千キロ ──
地図を見ると、
ケープタウンからオーストラリアの浜辺まで、
何一つありません。
見渡す限りの海、海、海……
そこをひたすら泳ぎ、
ヨシはその場所にたどりつきました。
自分が本当にいるべき場所に。
その決意とひたむきさと、
ヨシのふしぎな力。
満月を背に、
キラキラと輝く海から陸へとあがる、
ヨシの姿に胸を打たれます。
そして何より、
ヨシの、
小さかったウミガメの、
うちに秘めたすごい力。
そのすごい力に
心がふるえる物語です。
人間は忘れる生き物。
どんな感動もどんな興奮も時が経てば記憶の底に沈みゆき、その片鱗さえも見失いがちです。
それは読書も同じこと。
読んだ直度の高揚が、数日後にはすっかり雲散霧消…… などということも。
ですが、読みながら機微に触れた内容を記録しておけば、大切なエッセンスだけは自分の中に残る── はず。
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