読売新聞の夕刊に連載されている穂村弘さんの蛸足ノート。
いつも、読むとフッと気持ちが緩む大好きなコーナーです。
そんな穂村さんの著書を、初めて手に取りました。
「こんなんでいいんだ」性
この本は、かつて発行されていた大修館書店の贅沢なフリーマガジン『辞書のほん』に掲載されていた対談に、
加筆、修正して再構成されたものです。
穂村さんが会いたい人に会いにいき、
その方との対談が続いた後、
「逢ってから、思うこと」
という穂村さんのコメントで締められます。
対談相手は9名の著名人。
どなたも素晴らしい作品を生み出している方々ですが、
穂村さんの選定のことばがまた、面白い。
「よくわからないけど、あきらかにすごい人」に会いに行く
よくわからないけど
あきらかにすごい
この感じ、わかります。
そしてやっぱり、
この1行を読むだけでフッと緩む感じがあるのです。
対談後の写真撮影の時、どさくさに紛れて谷川さんのおでこに触ってしまった。どきどきした。ここにブラックホールが入っているんだ。
p31
自分は今、とんでもない傑作を、ぜんぜん受けとめ切れないまま、その価値をざあざあこぼしながら読んでいる、という焦りを覚えた。だが、始めから何十回も読み返すことがわかっているような永遠的な作品に触れる至福。それは他では味わえない特別な読書体験だ。
p160
自意識の塊になってうずくまる思春期の穂村さんにとって、
世界はどんどんよそよそしく、不気味なものになっていったそうです。
そんな穂村さんは、救いを求めて必死に本を読み、
音楽や絵画や映画にも興味を持ちました。
そんな中で、ごく稀に奇跡のような言葉や色彩やメロディに出会うことができた。
この世にこんな傑作がある。
世界のどこかにこれを作った人がいる。
それだけを心の支えに、 長く続いた青春の暗黒時代を乗り切ったそうです。
穂村さんの書かれる文章が、どこか優しく、いつも心をフッと緩ませてくれるのは、
そうした経験も関係あるのかもしれません。
「溢れそうな思いを胸の奥に秘めて、なるべく平静を装って、その人に創作の秘密を尋ねることにしよう。」
そんなふうに心持ちを書かれているように、 対談は穏やかに進みます。
それでも、抑えきれない思いがちょっとした瞬間に溢れてしまうこともあり、
それがまた良い。
しかし、対談以上に面白いのが、
対談後に書かれた「逢ってから、思うこと」。
穂村節が存分に効いています。
漫画家の吉田戦車さんとの対談で、
吉田さんが穂村さんの書く文章を評して、
「失礼かもしれませんけど、『あぁ、こんなんでいいんだ』って思えることがあって。」
と言われています。
それに対して、穂村さんは、
「『こんなんでいいんだ』性っていうのは、あるんでしょうね。」
と返すのです。
こんなんでいいんだ性!
なんですかそれは。
でもわかります。その感じ。
よくわからないけど、わかるのです。
「これではいけない」の対極。
その開放感。
読んでいると、私がフッと緩んでいる。
この著書も、そんな情調にあふれた一冊でした。