《絵本》『ちょっとだけ のんびりするひ』ウェンディ・メドゥール

読書

『ちょっとだけ のんびりするひ』は、
家でも学校でも「いそいで!」と言われつづけて泣き出しそうなティシャが、「こういう いちにちって、だいすき」と笑顔をみせるまでの一日を綴っています。

基本情報
・タイトル :ちょっとだけ のんびりするひ
・作者/訳者:ウェンディ・メドゥール (文)、ダニエル・イグヌス (絵)、やまもと みき (訳)
・発行日  :2023年7月1日
・ページ数 :32p
・出版社  :化学同人

朝、ティシャがきれいなお花をおいかけていたら……
「いそいで!」

学校へ行くとちゅう、耳をすませていると……
「いそいで!」

教室について、宇宙の本を読みかけると……
「いそいで!」

休みじかん、テントウムシのもようを数えているのに……
「いそいで!」

お昼ごはんのあと、お絵かきのとちゅうで……
「いそいで!」

なんで?

「いそいで!」
「いそいで!」
「いそいで!」

みんな「いそいで!」ばっかり。

学校が終わって、迎えにきてくれたママがいいます。
「いそぎましょ。
 バスに のりおくれちゃう」

 
 「やだ」
 ティシャは いまにも
 なきだしそうです。

一日中「いそいで」と言われつづけたティシャは、
こころがつかれてしまいました。
なきだしそうなほどに ……

「どうしたの?」
たずねるママに

「ちょっとだけ、のんびりしたいな」──

ゆっくりあるいて おさんぽ。

黄色いくるまを数えて ひとつ
空に飛ぶカモメは 5わ
あそんでいる子どもは 4にん
ダックスフントは? 2ひき

公園のハトになまえをつけて、
きょうのごはんはピクニック。

ひらひらと舞う
はなびらをおいかけて ──

「いそいで!」
「いそいで!」
「いそいで!」

何をそんなに急ぐのか、
理由など もう
だれにもわからないくらい

毎日みんながせかせかせかせか ……

今日、花をみた?
せかいの、音をきいた?
ゆっくりと、本をよんだ?
テントウムシを見たのは、いつ?

ティシャの豊かにひろがる世界が
「いそいで!」
の一言で閉ざされます。

だけど、
もう、
「やだ」

声をあげたティシャに
豊かな世界がもどってきました。

目の前に展開している世界。

立ち止まって、
いそがないで、
そこに目を向けてみたら、

キュッと縮こまっていた胸が、
しんこきゅうでふくらみます。

こんど
「いそいで!」
と言いそうになったら、
ふーっとひといき しんこきゅうを。

「ちょっとだけのんびり」──

満たされた世界は、そこにあります。

人間は忘れる生き物。
 どんな感動もどんな興奮も時が経てば記憶の底に沈みゆき、その片鱗さえも見失いがちです。
 それは読書も同じこと。
 読んだ直度の高揚が、数日後にはすっかり雲散霧消 などということも。
 ですが、読みながら機微に触れた内容を記録しておけば、大切なエッセンスだけは自分の中に残る── はず。

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