fuuingyogaに掲載している書評から、2024年の下半期に公開した書評を、ジャンルごとにご紹介します(ジャンルは私の感覚です)。
興味を持たれた方は、書評本編も読んでみてください(書名をクリックすると本編にジャンプします)。
小説(10冊)
第170回直木賞における選考委員の方々の言葉が気になった本書。
「万城目さんしか書けない奇跡的な小説。」という傑作青春小説(帯コピーより)を、
お盆を前に読みました。
著者の作品が初めてアニメ映画化されたと知り、まずは原作を、と手に取ったのですが ……
正確には原作ではありませんでした。
とはいえ、いつの間にかジャンルを超えた村上春樹の世界に没頭してしまった短篇集です。
著者が1995年1月に起こった阪神・淡路大震災に触発されて記した6つの黙示録。
著者原作のアニメ映画「めくらやなぎと眠る女」では、この短篇集の中から2篇が取り入れられており、摩訶不思議な世界を創り上げています。
「誰かに親切にしなきゃ、
人生は長く退屈なものですよ」
そんな言葉が気になって手に取った作品です。
なにがあるわけではないけれど意義深い日々を、ずっと見守りたくなる物語でした。
著者原作のアニメ映画「めくらやなぎと眠る女」に取り入れられている作品を順に読んできて、この小説集で最後に残っていた1篇も読むことができました。
初めて手にしたつもりで読んでいたら、どうやら過去に読んでいたようです。
詳細は忘れても、物語のカケラが記憶の底に埋め込まれる。そんな小説集です。
2024年・第22回『このミステリーがすごい!』大賞の大賞受賞作。
久しぶりにミステリーを楽しむつもりで読んだこの作品は、異世界ファンタジーとしても、古代エジプト歴史小説としても、そして哲学的要素としても楽しめる内容でした。
著者2度目の本屋大賞受賞作。
ただ愛しているだけなのに、抗えない境遇の中で悩み苦しむふたり。
たったひとつを選び取るために。
たったひとつの望みのために。
最後まで心が切なくなる物語です。
名もなき男の一生を描くヒューマンドラマ。
日本語にして150ページにも満たない短い物語ですが、男の生き様が静かに心に沁みてきます。
何度もここに戻ってきたい ──
そんな読後感に包まれました。
著者の『ある一生』の世界に惹き込まれ、他の作品も読みたくなって手に取りました。
人間という単純な存在の、複雑な人生。
その人生の一瞬を切り取った死者の語る声が、生きるということについて問いかけてきます。
著者の作品3冊目になる本書は、映画『17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン』の原作にもなりました。
先の2作品とは趣を異にし、17歳の少年が主人公の青春小説です。
思いもかけず哀切で、心に残る物語でした。
エッセイ(6冊)
『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』文庫本の解説者、日野剛広さんが惹かれた名文が収録されたエッセイです。
『ぼくは〜』で描かれていたよりも、もっとリアルな底辺の日常が綴られています。
『ジンセイハ、オンガクデアル』ブレイディみかこ
『オンガクハ、セイジデアル』の姉妹編、「『底辺託児所』シリーズ誕生」と銘打たれた1冊です。
夢も希望もなさそうなリアルな底辺の社会を描きながら、読むとなぜだか元気になります。
2018年から文芸誌「群像」に連載されたエッセイに、単行本出版後に書かれた時評も収録し、2018年から2023年までの激動の英国状況をカバーする時々エッセイ集。
「何かが壊れている」と感じる英国の状況は、日本にも重なる無視できない姿です。
「孤独はいまは、むしろのぞましくないもののようにとらえられやすい。
けれども、孤独がもっていたのは、本来はもっとずっと生き生きとした積極的な意味だった。」
それを感じさせてくれる、著者が好きな孤独が豊かに綴られています。
本のプロである江國さんが、他者の作品に触れ、そばに本があることの幸せを綴る書評の数々。
絵本、童話、小説、エッセイ、詩、そして海外ミステリーまで ――
本を読む喜びにあふれた読書エッセイです。
不都合な事実もあるし、面倒で厄介なこともある。
でも、それらも含めて人が生きるということ。
そんなことを思い出させてくれる、珠玉のエッセイ集です。
ノンフィクション(3冊)
『紙つなげ!彼らが本の紙を造っている 再生・日本製紙石巻工場』佐々 涼子
紙の本が好きなのに、その紙がどこで作られているのか、この本を読むまで考えたこともありませんでした。
2011年3月11日の未曾有の大震災を乗り越えた、日本製紙石巻工場の覚悟の記録です。
「神の鳥」とよばれるライチョウ。
そんなライチョウは、中央アルプスでは絶滅されたとされていました。
しかし、突然現れた1羽のメスから復活作戦が始動します。
絶滅危惧種の存続をかけて戦う鳥類学者の不断の挑戦を追った「神の鳥」復活の記録です。
私が著者の名前を知るきっかけになった本です。
日本ではあまり馴染みのない「エンパシー」の光と影を伝えるべく、この概念を深く掘り下げる著者の思考の旅が綴られています。
その他(教養・実用など)(10冊)
下半期の一冊目に取り上げた本です。
高校生への脳講義シリーズの2作目で、著者自らが「一番思い入れがあって、一番好きな本」と語る知的興奮に満ちた1冊です。
子どもの頃から絶え間なく、
熾火のようにちろちろと燃え、
普段は鳴りを潜めているものの、
何かの拍子に燃え上がる ── 。
そんな「嫉妬」という感情とどう付き合えばいいのか、考え方を示してくれます。
「帰って来たヨッパライ」が大ヒットしたものの、ファンに期待される「自分」と、本当の「自分」は違うのではないか、とむなしさを覚えた著者の手による一冊。
精神分析学を活かした深層心理学で、「むなしさ」について考察されています。
「史上最悪のメンタル」と言われる現代人のあらゆる世代向けにわかりやすく解説した「心の取説」。
脳の一番大事な仕事とは何なのか?
メンタルを元気に維持するために知っておいたほうがいいメッセージが綴られています。
「新書大賞2024」に選ばれた本書。
ことばはどう生まれ、進化したか ──
「ことばとは何か」という疑問、そして言語の本質を問うことが、人間とは何かを考えることにもつながります。
ヨガ哲学を学ぶ中で、話題にのぼった一冊です。
『答えより問いを探して』。
まるで自分に対して言われているような本の題名がとても気になり、手に取りました。
名コラムニストの著者が、小学5年生を対象に行った作文の授業をもとにまとめられています。
文章を書くことは、ほんとうはこんなにも楽しい。
文章は自分を丸ごと受け止め、頭も心も軽くしてくれる。
そんなことが伝わってくる授業でした。
「高校生への脳講義シリーズ」、前作の刊行から10年を経ての最新作です。
著者が伝えたかったのは、思考する楽しさ。
思考することが楽しさの次元を増やし、豊かな生活へとつながります。
著者の最新作『夢を叶えるために脳はある』に登場する認知バイアスに関する実験が面白く、そんな実験を集めた本書を手に取りました。
ヒトらしさの一端に、楽しみながら触れられる絵本です。
燃え尽き症候群(バーンアウトシンドローム)。
よく耳にする言葉ですが、それがいつから発生し、どういう定義で、どうすれば終わらせることができるのか、理解しているとは言い難い状況です。
そんなバーンアウトについて、詳細に書き記されている一冊です。
その他(絵本・詩歌など)(2冊)
長田弘氏の『私の好きな孤独』のなかで紹介されており、ひときわ心惹かれた作品です。
遥か遠く、アンダルシアの地で紡がれた、
詩人と銀色の小さなロバ、プラテーロとの日々が綴られています。
そこには、日常に秘められたよろこびが静かに満ちています。
本書を知ったのは新聞の小さな記事。
米国の漫画賞「アイズナー賞」で、本書の英語版が最優秀アジア作品賞を受賞したという内容でした。
かけがえのない日常の小さな幸せを描きとめた絵日記です。
おわりに
2024年下半期の書評は、『単純な脳、複雑な「私」』からはじまりました。
帯に惹かれて手にした作品、映画化を機に読んでみた短篇集、切ない物語、何度も読みかえしたい一冊 ……
下半期も本の世界に深く潜り、本がそばにある幸せを感じることができました。
この記事を読んでくださった方に、一冊でも気になる作品がみつかれば嬉しいです。