《書評》2024年上半期:読書のまとめ

読書

fuuingyogaに掲載している書評から、2024年の上半期に公開した書評を、ジャンルごとにご紹介します(ジャンルは私の感覚です)。
興味を持たれた方は、書評本編も読んでみてください書名をクリックすると本編にジャンプします)

小説(5冊)

『続 窓ぎわのトットちゃん』黒柳 徹子

はるか昔の子どもの頃、
寝る前の読み聞かせで読んでもらった懐かしいあの小説の続編。
「トットはピンときた」
が教えてくれる、生き方のヒントが散りばめられた作品です。


『流浪の月』凪良 ゆう

事実と真実。
分かったつもり、知っているつもり、理解しているつもり、
そんな「つもり」が誰かを傷つけているかもしれない ── 。
そんなことを考えさせられる、映画化もされた作品です。


『ヘブン』川上 未映子

映画「PERFECT DAYS」のパンフレットに載っていた彼女の発言が深く心に残り、
初めて著書を読みました。
胸を抉る描写に苦しみながら、読むのが止められない。
読み終わった後も、私の中に問いを残した一冊です。


『spring』恩田 陸

新聞広告に一瞬で魅せられ、書店に駆け込みました。
踊るようなspringの書名。
恩田陸さんの「これほど萌えたのは初めてです」のコメント。
期待を裏切ることなく、耽美でロマンティックな世界に浸ることができました。


『同姓同名』下村 敦史

ビブリオバトルで中・高・大学生の全国大会において3冠に輝いた本書。
名前とは何か。
名前に囚われて人生を生きていくのか。
軽い気持ちで手に取った本書が、思いもかけず囚われない生き方について考える機会にもなりました。


エッセイ(6冊)

『少食を愉しむ』ドミニック・ローホー

『シンプルに生きる』のシンプルシリーズが有名な著者の、食に特化したエッセイです。
ダイエット本ではありません。
「自分の問題を解決できるのは自分だけ」。
自分だけのオリジナルな食を創造していくための伴奏者となってくれる本です。


『やまだ眼』山田一成、佐藤雅彦

曖昧なものを言語化しようと試みている一冊。
山田さんの、世の中を見る独自なまなざし「やまだ眼」と、
やまだ眼がとらえたものを的確に解説する佐藤さん。
山田さんのネタと佐藤さんの解説が、意識の深いところへ導いてくれます。


『CARPE DIEM 今 この瞬間を生きて』ヤマザキマリ

奇抜な設定と阿部寛さんの演技に大笑いさせてもらった映画『テルマエ・ロマエ』。
その原作者であるヤマザキマリさんの、
老いと死にまつわるエッセイです。
この生を生き生きといきていくための、マリさんからのメッセージです。


『ものがわかるということ』養老 孟司

「自分とは」答えは身体に。
エゴの頭で考えがちな日々ですが、わかったつもりでわかっていないことも多いです。
では、養老先生の「わかるということ」とはどういうことなのか。
わかるということを見直すための一冊です。


『生き上手 死に上手』遠藤 周作

かつて夢中になって読んでいた著者のエッセイを、久しぶりに手に取りました。
心の奥底を覗き込むような純文学と、
狐狸庵先生の痛快なエッセイ。
遠藤周作のふたつの要素(人格)が違和感なく織り込まれた一冊です。


『夜明けを待つ』佐々 涼子

私が著者を知るきっかけになった一冊です。
「希少がん」の「希少」を「希望」と見る佐々さん。
そんな佐々さんが記すノンフィクションの原点を垣間見せてくれるような、
厳選したエッセイとルポタージュの作品集です。


ノンフィクション(6冊)

『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』佐々 涼子

死者を手厚く弔う「厚葬思想」と、葬礼を簡素化する「薄葬思想」は、
あざなえる縄のごとし古くから繰り返し登場してきました。
そして現代は、薄葬思想の時代。
そんな時代において、最後の最後まで尽力する国際霊柩送還士の方々の姿が描かれます。


『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子

私たちは今この瞬間を生きている。
裏を返せばそれは、今この瞬間を消費しているということ。
その事実を、貴重な一瞬一瞬を、
佐々さんが取材し、私たちに見せてくれます。


『あの人に会いに 穂村弘対談集』穂村 弘

読売新聞夕刊に連載されている穂村さんの蛸足ノート。
読むとフッと気持ちが緩む、大好きなコーナーです。
この対談集でも、その穂村節が存分に効いています。
読んでいると、いつの間にか緩んでいる自分に気づきます。


『六つの星星』川上 未映子

芥川賞作家の著者が、敬愛する作家や生物学者、哲学者、精神科医ら6人と語り合う対談集。
専門家相手の会話は深く深く進み、
私を(読者を)置き去りにする勢いでもあるのですが、
知りたい、という強いエネルギーに魅了されます。


『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』ブレイディみかこ

題名をよく耳にしていながら、なぜか未読だった本書。
あぁ、なぜもっと早く読んでおかなかったのか。
内容もさることながら、ぐいぐい読ませるリズミカルな文章に、
ページを繰る手が止められないまま、あっという間に読み終わりました。


『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』ブレイディみかこ

前作があまりに面白かったので、続編があると知って嬉しくなりました。
凛々しささえ感じられるぼくとパンクな母ちゃんコンビ、そこに柿の種大好きな配偶者も加わって、事件続きの毎日を生きていきます。
重くて暗くなりがちなテーマでも、著者の文章でならもっともっと読みたくなります。


哲学(3冊)

『あなたの牛を追いなさい』枡野俊明、松重豊

悟りにいたる10の段階を10枚の図で表した「十牛図(じゅうぎゅうず)」。
その「十牛図」について、
曹洞宗徳雄山建功寺住職で庭園デザイナーの桝野俊明さんと、俳優の松重豊さんが対談します。
この本を読み終わると、「十牛図」が少し身近に感じられます。


『『ロッチと子羊』で学ぶ 中高生のための哲学入門』小川 仁志

新聞の人生案内で回答者を務めておられる著者。
著者の回答が面白く、いつも興味深く読んでいます。
そんな著者とロッチのお二人の鼎談から始まる哲学入門。
中高生に限らず、哲学の面白さを実感できる入門書です。


『こころの処方箋』河合 隼雄

人間とは、人のこころとは、その精神の働きとは、
複雑で矛盾に満ちており、
そう簡単に「わけのわかる」ものではない。
その「常識」を、55章にわたって教えてくれる一冊です。


その他(教養・実用など)(9冊)

『きみのお金はだれのため』田内 学

今年最初に読んだ一冊です。
お金に対する抵抗をどうにかしたくて手にした本書。
お金の正体の真実を、大富豪のボスと2人の若者との会話で楽しみながら知ることができます。
半年以上経った今でも新聞の1面に大々的に広告が載る、話題の教養小説です。


『書くのがしんどい』竹村 俊助

著者のアドバイスは、
「書こうとするのではなく、伝えようとすること。」
これに尽きると思います。
書きたい、いや、伝えたい、と思ったら、読んでみることをおすすめします。


『不便益のススメ』川上 浩司

無駄なムダと無駄でないムダ。
そんなことを考えたことがあるでしょうか。
効果、効用、効率重視の昨今では、手間のかかること全てが無駄の一言で片付けられそうです。
がしかし、そんなはずはない。
便利追求が見逃している大切なことに、再び目を向けるきっかけになりました。


『新 失敗学 正解をつくる技術』畑村 洋太郎

失敗を忌み嫌う硬直した思考は、問題を逆に大きくしてしまうかもしれません。
正解がどこかにあり、それに従ってさえいれば大丈夫 ──
という考え方の危うさを、多数の例で知ることができます。
正解を自分で見つけ出していくためには、失敗に対する抵抗を取り除くことが重要です。


『人は、なぜさみしさに苦しむのか?』中野 信子

さみしさはネガティブな感情で、できればないに越したことはない。
そんなことを思っていましたが、どうやらそれは勘違いだったようです。
さみしさは、人類にとって生存戦略のひとつ。
人はそういう生き物で、それでもいい人生を生きていけるのです。


『新版 科学がつきとめた「運のいい人」』中野 信子

科学と運?
相容れないと思われる両者が題名のこの本。
運についてというより、「しあわせな考え方」について書かれているような気がします。
あぁでも、そういう考え方ができる人が「運のいい人」なんですよね。


『わかりやすさの罪』武田 砂鉄

今の社会はわかりやすさを要求してきます。
時短、シンプル、明確 …
でも、人も世界も本来は、そんなにわかりやすいものではないはず。
わかりやすさの危うさに気づかせてくれる内容です。


『客観性の落とし穴』村上 晴彦

エビデンスという言葉を聞くと、なんとなく安心してしまう。
でも、エビデンスってなんなのでしょうか。
客観的データに過大な価値を見出す社会に対して、
客観=真理というとらえ方の錯覚を示してくれる一冊です。


『訂正する力』東 浩紀

新書大賞2024で第2位となった本書。
訂正を許さない現代社会の不自然さ。
もともと日本には備わっていた訂正する力。
哲学をベースにした著者の提案が、成熟した社会のあり方を教えてくれます。


おわりに

『きみのお金はだれのため』から始まった2024年上半期の書評。
恐る恐る書き始めた書評も、書き綴るほどに楽しくなってきました。

新しく出会った著者、懐かしく読み返した作品、ページを捲る手が止まらない一冊 …
やっぱり本は素晴らしく、本に触れる時間はかけがえのないものだと思う上半期でした。

この記事を読んでくださった方に、一冊でも気になる作品がみつかれば嬉しいです。

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