『しずかなおきゃくさま』は、
お留守番中のこぎつねと、「しずけさ」とのひとときを描いた、やさしい筆致の絵本です。

基本情報
・タイトル :しずかなおきゃくさま
・作者/訳者:ヌリア・フィゲラス (文)、アンナ・フォン (絵)、宇野和美 (訳)
・発行日 :2024年9月30日
・ページ数 :29p
・出版社 :光村教育図書
「いい? だれが きても、ドアを あけては だめよ」
かあさんぎつねがそう言って、
でかけたあとの家のなか。
そとはしだいに暗くなり、
おさないきつねはひとりぼっち。
こころぼそい留守番中、
トントントン。
たずねてきたのは、
「しずけさ」です。
だけどこの「しずけさ」、
にっこりとして
「わるいやつじゃ ないかも」。
一緒におやつを食べて
くるくるとダンスをして
──
こぎつねはうれしくなって、いいました。
「おんがくを かけてあげる!」
ところが「しずけさ」は、いうのです。
「おんがくを かけるなら もう かえるよ」
そして、こぎつねに そっと ささやきました。
「おんがく なしで、おどろう」
こぎつねは戸惑います。
おんがくなしで?
どうやっておどるの?
おんがくがないと、楽しめない。
おんがくなしでなんて、踊れない。
……
そんなこぎつねに、
「しずけさ」は教えてくれます。
静かに耳をすませたら、
聞こえてくるものがあるんだよ ──

街を歩くときにイヤホンは当たり前。
イヤホンがなくても、音、音、音!
世界は音の洪水で、
静けさなどいったいどこに ──
そんな今の世界では、
静けさのなかのたのしさ、
静寂のなかのいきいきとしたもの、
孤独がもたらす限りない豊かさ……
そのようなものにであうことが
難しくなっています。
だけどこぎつねは、
であいました。
トクントクン トクントクン。
しずけさのなかから
聞こえてくるものに。
じぶんのなかから
たしかに聞こえてくるそれに。
「また きてくれる?」
たずねるこぎつねの声に
こたえる声はありません。
けれどこぎつねには、分かっています。
「ママ、あたらしい ともだちが できたよ」──
静けさのなかへ、
自らはいってゆくやすらぎ。
それを思い出させてくれる、作品です。
人間は忘れる生き物。
どんな感動もどんな興奮も時が経てば記憶の底に沈みゆき、その片鱗さえも見失いがちです。
それは読書も同じこと。
読んだ直度の高揚が、数日後にはすっかり雲散霧消…… などということも。
ですが、読みながら機微に触れた内容を記録しておけば、大切なエッセンスだけは自分の中に残る── はず。
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