私が学んでいるヨガ哲学の先生が、講座のなかで紹介してくださった映画です。
昨年公開（2024年現在）の作品なのに、先生にお聞きするまでその存在を知りませんでした。
フランス映画だから？
ミニシアターでしか上映されなかった？
ともあれ、Amazonプライムビデオで配信されていたので、早速観てみることにしました。
（ 結末を暗示する内容が含まれています。これから鑑賞される方は、ご注意ください。）
作品情報
・製作年：2022年
・製作国：フランス
・劇場公開日：2023年4月7日
・上映時間：91分
・監 督：クリスチャン・カリオン
あらすじ
さえないタクシー運転手がある日乗せたのは、終活に向かう一人のマダム。
彼女の依頼は、終の住処として選んだ老人ホームへ向かう道すがら、人生を過ごしたパリの街をあちらこちらへ寄り道すること。
寄り道するたびにマダムの秘密が明かされて、ただの長距離移動のはずが、いつしかかけがえのない旅へと変わっていきます。
そして最後には、思いがけないサプライズが！
主 演
マドレーヌ（リーヌ・ルノー）
終活に向かうマダム。
無愛想なタクシー運転手にも臆さず、パリの街を寄り道しながら自分の過去を語ります。
その人生は、失うことの連続。
愛する恋人、新しい夫、自分の時間、最愛の息子 ──
愛おしいものがすべて自分の手のひらから滑り落ちていった人生。
それでも、マドレーヌの目は生き生きと輝いています。
演じるのはリーヌ・ルノー。
最もキャリアの長いシャンソン歌手です。
「これは私の遺言になる映画よ」と宣言して本作へ出演し、94歳の時に92歳のこの役を演じています。
エイズアクティビストと、尊厳死法制化活動への長年にわたる功績を称えられ、2022年に仏最高勲章であるレジオン・ドヌール勲章を受賞しました。
シャルル（ダニー・ブーン）
金なし、休みなし、免停寸前の無愛想なタクシー運転手。
家族への熱い愛にはあふれていますが、余裕のない日々のなかですぐにカッとなります。
最初はマドレーヌにも仏頂面でつっけんどん。
けれど、終活への道行を共にするうち、シャルルの中で何かが変化していきます。
演じるのダニー・ブーン。
フランスを代表する大人気コメディアンです。
演技派俳優としても高く評価されており、この作品でも物語の序盤と終盤との表情の違いに、その演技力が遺憾なく発揮されています。
貧しい労働者階級出身ですが、幼い頃から舞台に立つことを夢見て学び、現在では映画監督、脚本、舞台などマルチに活躍しています。
大切なもの
失うばかりの人生を生きてきて、けれど大切なものは失っていないマドレーヌと、
今まさに失うばかり、そのままならなさに苛立つシャルル。
そんな2人が出会い、一日かけたパリの寄り道が始まります。
楽しい思い出、悲しい思い出、驚き、衝撃、驚異 ……
マドレーヌの並外れた人生を聴くうちに、シャルルの固い心が徐々にほぐれていきます。
いつもはイライラだけが詰まっているタクシーの中は、
いつしか優しいものが満ちた豊かな空間へと変化していました。
あなたと過ごしたタクシーでの旅は
私の人生最後の幸せなひとときだった
”美しき旅路”とはまさにあのことね
マドレーヌの人生は、世間的に見れば不幸かもしれません。
自分が手に入れようとしたもの、愛したもの、守ろうとしたもの、
全てが失われてしまった人生です。
それでも、マドレーヌは凛として、輝いています。
なぜなのか。
それは、マドレーヌの中には決して失われない大切なものがあり、
そしてその大切なものの存在にマドレーヌが気づいているからです。
そんなマドレーヌと共に過ごすことで、
シャルルも大切なものに気づきはじめます。
シャルルの表情を見ていると、シャルルの中がどんどんと満たされていくのがわかります。
お金がない、時間がない、免停寸前。
何もかもイライラする！
旅を終えた時、そんなシャルルはもうどこにもいません。
マドレーヌが気づいていた大切なものが、
シャルルの中にもしっかりと息づいていました。
映画のラストシーンは、最大のサプライズです。
「これからでも遅くない、
人生を謳歌して」
という、マドレーヌからシャルルへの贈り物。
こんなサプライズは夢物語、と思うなかれ。
自分の内側が満たされると、外側も満たされていくものなのです。
これは、ヨガ哲学にも通じる考え方。
あれがない、これがない ──
ないないばかりを思っていては、本当になにもない人生になってしまいます。
そうではなくて、まずは自分の内側を満たすこと。
すでに満たされていることに気づくこと。
そんなことも教えてくれる、
じんわりとした心地よい余韻が残る作品でした。
現在この作品は、AmazonPrimeVideoで配信されています。
Amazonプライム会員の方は、無料で視聴可能です。
興味を持たれた方はチェックしてみてください。
