《絵本》『まぼろしの雲豹(ウンピョウ)をさがして』鄒駿昇(ページ ツォウ)

読書

『まぼろしの雲豹ウンピョウをさがして』は、
台湾の森ふかくに棲むといわれる雲豹に魅せられ、150年の年月を超えて行動する二人の男の姿を描いた絵本です。

基本情報
・タイトル :まぼろしの雲豹ウンピョウをさがして
・作者/訳者:鄒駿昇(ページ ツォウ) (作)、東山 彰良 (訳)
・発行日  :2024年6月30日
・ページ数 :36p
・出版社  :工学図書

雲豹は、肉食目の大型ネコ科に属する、台湾固有の哺乳類です。
全身は美しい雲紋の斑点でおおわれ、先住民からは「聖霊」や「聖獣」と呼ばれて貴ばれてきました。

1856年、そんな雲豹の美しい模様に心を奪われたのが、イギリスの外交官、ロバート・スウィンホーです。
博物学者でもあった彼は、どうしてもそのあでやかな雲豹を自分の目で見たくなり、1866年に台湾を離れるその日まで、森林を歩きまわり、雲豹を探し求めます。
10年にわたる観察、調査、研究 ──
しかし結局、 雲豹を実際に見る望みは叶えられませんでした。

それから150年の後。
スウィンホー同様、雲豹のあざやかな紋様に深く魅了された若者がいました。
生態学者・姜博仁ジャン ボーレンです。

スウィンホーの時代とは違い、現在のテクノロジーは雲豹探索への道を大きく開きました。
なにもかもが可能性と希望に満ちあふれている予感。
姜博仁はわくわくしながら山林に足を踏み入れ、自分がどんどん雲豹に近づいていると感じるのですが ──

 
 ふと ふりむくと、雲豹が 遠くから じっと こちらを
 見つめているような 気がした。

雲豹は
夜行性で木登りがうまく、
単独行動を好み、
その生活ぶりは謎に包まれています。

テクノロジーを駆使し、姜博仁がありとあらゆる場所に設置したカメラは、
台湾の森林に棲息するほとんどすべての野生動物の姿をとらえました。
けれども、
森にうまく溶け込む雲豹だけは、その姿をとらえさせてはくれません。

姿は見えずとも感じる、雲豹の視線、気配、痕跡 ……

姜博仁も10年以上の月日をかけ、雲豹を追い求めます。
がやはり、その目で雲豹を見ることは叶わないのでした。

雲豹は人を魅了し、
見る者の欲望を刺激します。

目をみはるほど、あでやかな毛皮。
トラに匹敵するほど、長く鋭い牙。

毛皮用に、
医療用に、
ペット用に ……
密猟が後を絶ちません。

そこに追い打ちをかけるのが森林破壊。
雲豹の生息地は減少し、
姜博仁もおごそかに宣言します。

「雲豹は もう すっかり 台湾の山林から いなくなりました」──

けれど、ごくたまに、
風の便りが届くのです。

「だれかが 雲豹を見かけたみたいだよ」

森に溶け込むのが得意な雲豹。
木の上を優雅に移動し、
足跡すらめったに見つけさせない雲豹。

そんな雲豹であれば、
本当はただ巧みに隠れているだけなのかもしれません。
今でも台湾の森ふかくで、
はるか高い樹上から、
彼らを探し求める人間を見下ろしているのかもしれません。

スウィンホーが歩きまわった緑豊かな森林は、
今では無機質な建造物に、
ずいぶん置き換えられてしまいました。

それでも、
無機質な建造物のその奥に、
雲豹の住む森が残されていますように ……

そう願わずにはおれなくなる一冊でした。

人間は忘れる生き物。
 どんな感動もどんな興奮も時が経てば記憶の底に沈みゆき、その片鱗さえも見失いがちです。
 それは読書も同じこと。
 読んだ直度の高揚が、数日後にはすっかり雲散霧消 などということも。
 ですが、読みながら機微に触れた内容を記録しておけば、大切なエッセンスだけは自分の中に残る── はず。

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