アンデシュ・ハンセン先生の本はこれまでも何冊か読んできました。
その著書『スマホ脳』や『運動脳』などで、現代社会がいかに私たちの脳と相容れない環境であり、どれほどメンタルを悪化させるのかを示してくれましたが、今回はズバリ『メンタル脳』。
「史上最悪のメンタル」と言われる現代人のあらゆる世代向けにわかりやすく解説した「心の取説」ということで、今回も手に取ってみました。
メンタル脳 [ アンデシュ・ハンセン、マッツ・ヴェンブラード ]
脳の一番大事な仕事
くどいほどに書かれているのは、
「脳の一番大事な仕事」とは何か?
それすなわち
「私たちを生きのびさせることである」
ということです。
私たちの身体や脳は、生きのびて子孫を残すために進化してきました。
人間の歴史のほとんどを占める狩猟採集時代では、子供の半数が10代になる前に死に、生きのびることが最優先課題でした。
人間は、歴史の99.9%の時間をそのようにして生きてきた。
だから、脳は命が最優先。
気分良く過ごすとか、幸せに暮らすとか、そんなことは脳にとっちゃあ二の次なのです。
そんなわけなので、脳は危険に強く反応します。
あらゆる危険を遠ざけようとし、私たちを安全な状態にいさせようとします。
そのために使われるのが「感情」です。
脳は、私たちを生きのびさせるために「感情」という道具を駆使します。
その時、前述したように脳は「幸せなんてどうでもいい」ので、少々困ったことになります。
明確な原因がなくても「何かがおかしい」と感じたら不安という感情で知らせますし、
良い気持ちを短くした方が効果的なら、脳はそうします。
そうでなければ急な危険に反応できないし、
良い気持ちがずっと続けば進化へのモチベーションも生まれなかったからです。
脳は感情を利用して私たちを生きのびさせようとする。
それが人間で、人間はそういうふうにできているのです。
ただし問題なのは、
脳は今でも何千年も前の狩猟採集時代を生きているのに対し、
環境は大きく変わってしまい、
そのギャップが甚だしい、
ということです。
何度も説明した通り、感情は変化するものです。どんな感情も永遠にそのままということはありません。でなければ役割を果たせないのですから。それはつらい感情についても言えることで、ある時期につらい感情がたくさんわいても人生ずっとそうだというわけではない、そのことは忘れないでほしいのです。
p175
「幸せとはいつも楽しんでいて満足している状態」だと考える人は多いと思います。しかし問題は人間がさっき感じた感情と今感じている感情を常に比べてしまうところにあります。1日中満足しているためには、次の瞬間にもっと良いことが起き続けなければいけませんが、そんなことはありえません。
p185
脳も感情も私の一部であるはずなのに、この本を読んでいるとその感覚がゆらいできます。
脳は「私」など無視して感情という道具を駆使し、人間という種の存続に命懸けです。
けれど実際にそうなのでしょう。
脳は今とはまったく違った世界で進化し、
長い進化の過程でようやく獲得した生きのびる知恵を、
今現在も存分に発揮しているようですので ••••••
著者は言います。
「そのためにちょっと困ったことになるのですが、そこはどうしようもありません。
そんな脳には優しくし、わかってあげる努力も必要です。
私たちを生かしておくために必死でがんばってくれているのですから。」
できればいつでもハッピーで、明るく幸せに過ごしたい ──
もちろんそんなことは無理ですが、
SNSは常に(見た目には)完璧な人生を見せつけてきますし、
広告は楽しい体験が数珠つなぎになった世界観を私たちに植えつけます。
そんな現代は、
サバイバルのために進化してきた脳がつくりだす感情とは不釣り合いな環境なのです。
でも、それを知っているか知らないかが大きな違い。
なぜ脳が不都合な感情をつくりだすのか。
それは、脳が今の世界のことをよくわかっていないにも関わらず、私たちを助けようとしているからです。
それがわかっていれば、つらい感情や苦しい感情にただ翻弄されるのではなく、
少し離れた目で見ることができるようになります。
どんな感情がわこうとも、それが人間で、人間はそのようにできているのだ。
その事実を自分のなかに落とし込み、ままならない感情を今までよりも寛容に受け入れることが、どうやらメンタルの調子をよくする第一歩のようです。
著者が、自分が10代の頃に読みたかった本を書いたという本書。
10代はもちろん、はるか昔に10代だった世代でも、メンタルを元気に維持するためには知っておいたほうがいいメッセージが綴られていました。
脳が生み出す不都合は、それすべて脳からの愛の賜物。
読み終えると、今までよりも脳に親しみを感じるとともに、つらい感情への怖さが少なくなっていることに気づきました。