《書評》『自分では気づかない、ココロの盲点』池谷 裕二

読書

著者の最新刊『夢を叶えるために脳はある』は、脳の解説本というには長大なボリュームで、
脳はもちろん、科学、生命、人間、宇宙など広範な話題を巡りながら高校生たちと一緒に脳のビジョンを築き上げていく漂流奇譚です。

その中に「ヒトらしさ」、つまり脳のクセや思考のバイアスに関する実験が出てきましたが、それがいちいちおもしろい。
そんな実験を集めた著者の本を図書館で見つけたので、手に取ってみました。

自分では気づかない、ココロの盲点 [ 池谷 裕二 ]

脳の仕様

Q.あなたはどれに当てはまりますか?  
 ①晴れ男・晴れ女だ  
 ②雨男・雨女だ  
 ③どちらでもない

私の個人的な回答は①ですが、正解は ……

Q.ブザー音が鳴ってスイッチを押せばエサが出る装置でハトをしつけました。  
 あるとき突然、音やスイッチと関係なくエサが出るようになると、ハトはどうしたでしょうか?  
 ①じっとエサを待った  
 ②不思議な踊りをした

不思議な踊りをした?それはなさそうだから①か? 正解は ……

Q.次の二つの矛盾した身体状況。どちらが感情としてよりうれしく感じられるでしょうか?  
 ①顔を笑顔にしながら、体は肩を落とす  
 ②落胆した顔で、体はガッツポーズ

あ、これは知ってる。○だよね。正解は ……

本書はこうした興味深い脳のクセを、ドリル形式で体感できる「絵本」です。
著者が、「単なる解説本にしたくない」という想いから、イラストや装丁にこだわり、5年以上の歳月を費やして仕上がった本書。
「おわりに」に、紙媒体の本として、飾って楽しい、資料としても役立つ「絵本」だと書かれています。

認知バイアスには、古典例から最新例まで多様な項目があります。
その中から著者が厳選した30項目に加え、代表的な183項目が巻末にリストアップされています。

 胸に手を当てながら、素直にこのリストを眺めると、図星を指される項目も多く、自戒に胸が疼きます。でも、落ち込む必要も、恥ずかしがる必要もありません。それが脳の仕様なのですから。
 人はみな偏屈です。脳のクセを知れば知るほど、自分に対しても他人に対しても優しくなれます。それがこの本の狙いです。

p125

認知バイアスというと堅苦しいですが、それはまさに「脳のクセ」。
問題を楽しみながら解説を読んでいると、自分のクセが見えてきます。

自分の仮説や信念を重要視する傾向があるか、ないか。
苦境に立たされたとき「まだいける」と思うか、思わないか。
同調圧力に影響されるか、されないか。
なかなか別れられない「ズルズルカップル」になるか、ならないか。
無秩序な出来事に法則性を見出すか、見出さないか ……

何の迷いもなく正解に辿り着く問題もあれば、解説を読んでも正解が腑に落ちない問題もあります。
それが私の脳のクセ、なのでしょう。

本編30+巻末リスト183、合計213項目の認知バイアスを眺めていると、
脳がどれほどのクセに縛られているのか少し怖くもあるのですが、
そんな怖いという感情さえも認知バイアスなのかも知れません。

そしてそれは、私が生まれて生きて今ここにやって来るまでの経験によって、
コツコツとつくり上げられたもの。
それならば、怖がるのではなく、親しみたいという思いが湧いてきました。

認知バイアスは無意識のうちに引き起こされる思考の錯覚。
無意識ですから気がつかなければそれまでですが、少しでも知っていれば気づくきっかけになります。
現に、『夢を叶えるために脳はある』を読んですでに知っていた問題に関しては、「あぁこれね」という感じで難なく理解ができました。

認知バイアスを知るということは、
自信や希望を与えたり、さらなる損失を回避できたり、
自分に不都合な暗示をかけなくなることなどにつながるのです。

さらに実験からは、
ヒトは動物の進化の果てにあるのだとか、
ヒトという生き物は自分で自分のことを決して知りえないとか、
認知バイアスに留まらない脳の不思議さ、面白さが感じられました。

人はみな偏屈ですが、それがヒトらしさ。
ヒトらしさの一端を、脳の視点から楽しみながら知ることのできる絵本でした。

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