《書評》『エンド・オブ・ライフ』佐々 涼子

読書

新聞の文化欄で、佐々涼子さんのことを知りました。

『夜明けを待つ』という作品集のあとがきに、
自身の希少がんについて、

「希少」は、私には「希望」と見えてくる

と書かれていると紹介されており、
どんな作品を書く方なのか読んでみたくなりました。

題名に惹かれて『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』を読み、
他の作品にも興味をそそられ、この本を手に取りました。

佐々涼子さんの著書、2冊目の作品です。

エンド・オブ・ライフ[ 佐々 涼子 ]

一瞬一瞬、私たちはここに存在している

当たり前のことですが、
私たちが今この時間を一瞬一瞬生きているということは、
自分の今生での持ち時間を一瞬一瞬消費しているということです。

ですが、
普段はそんなことをあまり意識しません。
「今日が人生最後の日のつもりで生きよ」
という言葉はよく聞きますが、
でもやはり死は遠くて、
「自分の日常が明日からも続いていく」という意識の上に安穏としています。

この本は、そんな日常が崩れ、
最期を迎える人たちと、
そこに寄り添う人たちの姿を描いています。

 私たちの決断は、自分でしているようでいて、そうではないのかもしれない。
 育った環境や、自分が見聞きしてきたもの、出会った人の姿に私たちは影響される。もし、私たちが別の家庭に育っていたら、あるいは別の職についていたら、違う選択をしていたかもしれない。人生の選択は、本人の意思ひとつであるように思いがちだが、目に見えないものによって大きく左右されている。
 どれほど努力しても、個人の力ではどうすることもできない、目に見えない潮目はあるものだ。私たちはその大きな海の中をひたすら泳いでいる。その大きな力が働いているとは気づきもせずに。 

p217

元々は患者を支える訪問看護師であった著者の友人、森山文則さんが、
自身の身体の異変に気づいたところから本著は始まります。

看護師として患者を支える森山さん。
支えられて密度の濃い時間を過ごし、旅立っていく人々。
そして、 自らが患者となり、生と死の間で揺れる森山さん。

そこに描かれている誰ひとりの一瞬一瞬も軽々しく扱えるものではなく、
見知らぬ他人がずかずかと踏み込んでよいものでもなく、
それでも、
その貴重な一瞬一瞬を、
佐々さんが取材し、私たちに見せてくれました。

自分がいつまで生きるのか、
どんな病を得るのか、
どんな選択をして、どんな人生を送るのか。

そして、
どういう最期を迎えるのか。

それは、どれだけ他人の人生を見てもわからず、
どれだけ自分の過去を見てもわからず、
そもそも、
明日、半日後、1時間後、そして、一瞬先がどうなっているのかさえ、
わかりません。

私たちは目に見えない大きな力によってこの世に生み出され、
大きな力がつくる波に乗ってここに至り、
そして、波とともにいきます。

生とはなにか、
死とはなにか、
明確にはわからず、
けれども、
今生で必ず訪れる最期という一瞬があることだけはわかっています。

そこに向かってどう生きていくのか。
理想の生き方とはどういうものなのか。
命の閉じ方をどうするのか。
•••••

終末期を過ごす人たちの生き様が、
「考えてみてはどうでしょう」
と、優しくささやいているような本でした。

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