『しろいおおかみ―White Wolf』は、
雪原をひたすら走り続ける白い狼の姿を通して、 存在の意味や命の目的に思いを馳せることのできる一冊です。
生命の、生の、美しさと崇高さに触れられる、静かで力強い作品です。

基本情報
・タイトル :しろいおおかみ―White Wolf
・作者/訳者:葉 祥明 (絵・訳)
・発行日 :2002年8月30日
・ページ数 :─
・出版社 :佼成出版社
狼は、一日に百キロも走り回るといわれています。
そのひたむきに走る姿には、
私たちの想像をはるかに超えた、
なにか深い意味と目的が込められているかのようです。
ぼくは はしる!
よろこびと ともに
ぼくは はしる!
「じぶんが いきている」ということを
かんじながら
私がこの物語を手に取ったのは、
表紙にたたずむ白い狼が
私のあの子の面影を感じさせたからでした。
じっとこちらを見つめる目。
広大な雪原に、静かにすっくと立つ姿。
── もっとも、
私のあの子がいつも立っていたのは、
あたたかいキッチンのマットの上や、
陽の光が差し込む大きな窓辺、
ソファでくつろぐ私の足元 ……
そんな日常の風景のなかでしたが、
少し目を細めてこちらを見つめていたあの表情が、
狼のまなざしに重なったのです。

見返しをめくると、咆哮する白い狼。
雪原に足を踏み出し、
もう一度こちらに目を向けたあとは ──
はしる!
はしる!
はしる!
はてしない白い大地を、
自由に、
よろこびとともに、
ひとつの大きな命の一部となって ──

私のあの子も、
そんなふうに走ったときがありました。
内に秘めるエネルギーを抑えきれないかのように。
躍動するよろこびを全身で表現するかのように。
小さな体に収まりきらない大きさを、
生き生きと体現するかのように。
晩年のあの子は
もうそんなふうには走れなくなっていたけれど、
それでもあの子はあの子として、
最期まで精一杯に生きました。
このよに あるものは すべて、そのように ある
ゆきは ゆきとして
ワシは ワシとして
カリブーは カリブーとして
そして、ぼくは ぼくとして ある!
あの子の生命のかがやきを、
私は忘れない。

人間は忘れる生き物。
どんな感動もどんな興奮も時が経てば記憶の底に沈みゆき、その片鱗さえも見失いがちです。
それは読書も同じこと。
読んだ直度の高揚が、数日後にはすっかり雲散霧消…… などということも。
ですが、読みながら機微に触れた内容を記録しておけば、大切なエッセンスだけは自分の中に残る── はず。
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