『「腹八分目」の生物学 健康長寿の食とはなにか』は、なぜ満腹になるまで食べる(食べすぎる)とよくないのか、という一見単純で実は複雑な問いに対する、現代生物学の最新の知見を紹介した本です。

「腹八分目にしなさい!」
誰でも一度は耳にしたことのあるこの言葉。
腹八分目とは、満腹になる手前(八割)で食べるのをやめるのが健康によい、という考えを端的に表現したものです。
食べすぎによるダメージの最たる例は老化であり、つまるところ「食べすぎがよくないのはなぜか」に対する答えは「老化を早めるから」と集約できます。
しかし、ことはそう単純ではありません。
確かに、腹八分目はいいらしい。
しかし、そもそも「八分目」とはどのくらいなのか、
生物にとって「最適な栄養」とはなんなのか、
まだまだ不明な点は多いのです。
本書では、そんな「腹八分目の生物学」について、最新の科学的な手法を駆使して調べられた研究結果が多数紹介されています。
読み進めるほどにヒトも含めた生物の巧妙さに驚き、「食べることの意味」を考えてみるきっかけになる一冊です。
基本情報
・タイトル :「腹八分目」の生物学 健康長寿の食とはなにか
・著者/編者:小幡 史明(著)
・発行日 :2025年7月15日
・ページ数 :120p
・出版社 :岩波書店
【 読書メモ 】
◾️腹八分目が寿命を延ばすことは、多くの生物に共通する基本原理のようだとわかってきた。
◾️食餌制限で寿命が延びるのは、カロリーの制限によるのではなく、タンパク質(アミノ酸)の制限による。
◾️動物は本能的にタンパク質に対する高い欲求(食欲)をもっており、腹八分目を意識しないと老化を早めるほどにタンパク質を食べてしまう。腹八分目で長寿になるには、その満腹から少しだけ減らすとよいかもね、といった感触である。
◾️食餌制限をすると、12の老化指標(ゲノムの不安定化、テロメアの短縮、オートファジー不全、ミトコンドリアの機能不全、細胞の老化、慢性炎症など)の大部分に影響が出る。実際、寿命を延ばすためには、体全体が健康になる必要がある。どこか一つでも悪い部分があると、それに引っ張られて老化が促進されてしまうからである。だから、個々の細胞がせーので同時に元気になることが必要である。
食餌制限ではこれらのさまざまな老化要因を一挙に抑制するしくみが発動し、寿命が延びるのである。
◾️低タンパク質食で死亡率が下がるのは65歳より若い時期に限られており、65歳を超えると、むしろ高タンパク質食をとっている方が死亡率が低いことが示唆されている。
◾️つまるところ、万人によい食事というのは残念ながらない。不足している栄養素があれば積極的に摂る必要があるし、過剰に摂取している栄養素があれば、控えた方がよい。
◾️生物にとって、食べることは生きることであり、生きるために何をどう食べるかということは、生物に共通の命題である。だから、その生物にとって食べなくてはならないものを、食べたくなるように進化してきた。このような進化のなせる業にしたがって赴くままに摂食すればよいのであるが、とかく現代は、これまで生命が出合うことのなかったような、「異常な」までに偏った栄養組成の食品や極端な味付けの食品が蔓延している。そうなってくると、食行動をある程度コントロールする必要が出てくる。
◾️生物がもつ栄養への適応機構はとても発達しており、事実、適当に食事をとっても一見、大丈夫だ。だから、どの栄養素をどのくらい摂ると健康的なのかを議論することは、非常に難しい。そして、生物が多様な栄養素をどう感知し、その過不足に対してどういった方法で適応しているのかについても、まだまだ不明な点が多い。栄養学はまだ発展途上なのである。
◾️食べることは、生きることそのものである。
この当たり前を科学の視点で捉え直すことにより、われわれは生命の奥深さに改めて気づかされる。
人間は忘れる生き物。
どんな感動もどんな興奮も時が経てば記憶の底に沈みゆき、その片鱗さえも見失いがちです。
それは読書も同じこと。
読んだ直度の高揚が、数日後にはすっかり雲散霧消…… などということも。
ですが、読みながら機微に触れた内容を整理しておけば、大切なエッセンスだけは自分の中に残る── はず。
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