『ペットロス いつか来る「その日」のために』は、愛犬を亡くした著者が、自分で制御できない心身の反応に空恐ろしさを感じ、なのに必要とする情報に辿り着けない、という経験をきっかけに書かれた本です。

号泣する準備はできていなかった ──
2020年5月6日、著者の愛犬は19歳5ヶ月で虹の橋へ旅立ちました。
人間でいえば100歳を超える大往生。
亡くなる4〜5日前から食を断ち、前日の夜は持病のてんかん発作を頻発。
いつか来る「その日」のことを考えていなかったわけではない。
けれどいざ「その日」を迎えてみると、
予想していたはずの衝撃に、
ほとんど何の備えもできていなかったことを思い知らされました。
いない子の様子を確認しようとする自分に愕然とする。
切なさ。
こみあげる涙。
突然のむせび泣き。
奇妙な泣き方を自分で笑い、
思わぬところであの子の「不在」を感じる日々 ……
「ペットがいよいよ危篤状態となっても、
飼い主というものは、
そんな中でちょっとした良い兆候を見出して、
『これから回復していくかも』
と一縷の望みをつなぐ。」
私もそうでした。
筋力の弱ったおぼつかない足で、
必死に立とうとしていたのに。
食欲を手放し、
もう食べることをやめようとしていたのに。
少し元気な素振りが見えたら「まだ回復する」。
少し何かを食べてくれたら「まだまだいける」。
── 現実を、直視できなかったのです。
けれど、
怖がらずにもっと向き合えばよかった。
終末期の情報をもっと調べておけばよかった。
「その日」は必ず来ると、わかっていたのに。
避けられるはずなどないと、わかっていたのに。
怖がって逃れようとした。
意気地なしだったよ。
ごめんね、風子
……‥
今、愛するペットと暮らせている全ての方へ。
「その日」を少しでも後悔せずに迎えるために、手に取ってほしい一冊です。
基本情報
・タイトル :ペットロス いつか来る「その日」のために
・著者/編者:伊藤 秀倫 (著)
・発行日 :2023年5月20日
・ページ数 :264p
・出版社 :文藝春秋
【 メッセージ 】
◾️ よきホームドクター(治療後に家(ホーム)に戻ったその子が快適に過ごせているかどうかを一緒に考えてくれるドクター)を見つけることは、ペットが生きているうちにできるペットロスに対する最初の“備え”と言える。病気は診るけど、飼い主やペットの心の状態に気付かないようなドクターは避ける。
◾️ペット自身は身体の不調は感じていても、病名や治療方針などは知るはずもない。これまでできたことができなくなり、客観的には死へと向かっていても、それを受け入れながら、最期の瞬間までまっすぐポジティブに生きていく。
◾️ペットにとって飼い主と暮らす家(ホーム)は、安心してリラックスした日常を送ることができる場所。特に終末期における治療は、その変わらない日常を送るために妨げになるもの(痛みや不快感など)を、鎮痛剤や鎮静剤でとってあげるだけでいい。ホームでぐっすり寝れるようにしてあげることが一番大事。
◾️痛みさえなければ、ペットは自分のペースで好きなものを食べて、動いて、好きな場所で寝る。その幸せそうな姿が、ペットが亡くなった後、飼い主に「回復のエネルギー」を与えてくれる。
◾️ AC(アニマルコミュニケーター)に対し飼い主は、「最後の治療で辛い思いをさせてごめんね」という懺悔や謝罪の気持ちを伝えてほしいということが多いという。「そう伝えると、亡くなったペットたちは、みんなだいだい同じことを言うんです。」「『今さら、何を言ってるのさ?』って言うんですよ。もうとっくに済んだことを今さら言うのが、本当に不思議でしょうがない、という感じなんですよね」。
◾️ ペットがいよいよ危篤状態となっても、飼い主というものは、そんな中でちょっとした良い兆候を見出して、「これから回復していくかも」と一縷の望みをつなぐ。とてもじゃないが、その段階で亡くなった後のことを考えて準備するのは不可能に思える。縁起が悪いというよりも、懸命に生きようとするペットへの裏切りのように思えてしまうからだ。
だから、ペットが生きているうちに葬儀のことまで「決める」必要はない。ただ「知っておく」だけでいい。
◾️ペットロスを「乗り越える」方法は恐らくない。あるとすれば、その悲しみを和らげ、自分の人生の一部として受け入れるための方法ではないか。
(ペットロスを和らげる方法:ペットロスについて知っておく、いざとなったら仕事を休む、その悲しみを誰かに話す、とにかく家を出て歩きまわる、部屋の掃除をする/引っ越しをする、ぬいぐるみやオンリーワンな形見に触れる、写真や動画をたくさん撮っておく など)
◾️「なぜ自分よりも早く死ぬと分かっているのに、ペットと暮らすのか」。
その答えは至極単純で、ペットが与えてくれる幾多の喜びは、ペットがいなければ、そもそも存在しなかったものだからだ。最期の別れの悲しみによって、ペットとともに暮らした幸せな時間が一時的に見えづらくなっても、消え失せるわけではない。そして新しいペットを迎えたからといって、亡くしたペットと紡いできた時間が消え失せるわけではない。
◾️今、ペットと暮らしている人は、家に帰ったらいつもより少しゆっくりその毛並みを撫でてあげてほしい。幸せというものに形があるとすれば、それはあなたのペットの形をしているはずだ。その幸せは手に触れることができる。積み重ねた幸福な感触と結びついた記憶は、いつか来る「その日」の後で、きっとあなたを助けてくれるはずだ。
人間は忘れる生き物。
どんな感動もどんな興奮も時が経てば記憶の底に沈みゆき、その片鱗さえも見失いがちです。
それは読書も同じこと。
読んだ直度の高揚が、数日後にはすっかり雲散霧消…… などということも。
ですが、読みながら機微に触れた内容を整理しておけば、大切なエッセンスだけは自分の中に残る── はず。
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